防災技術株式会社

10mメッシュを用いた斜面崩壊再現

警戒避難体制の充足に資するため、裏山レベルでの土砂災害発生の危険性を広域的に評価できる崩壊モデルの作成と、予測計算結果を迅速に活用できるシステムを構築いたします。

本ページでは、事例としていくつかの再現計算および予測計算をおこなった様子をまとめています。


再現計算手法と対象災害

計算手法

  • タンクモデルを用いて地下浸透・水位を計算
  • タンクは2層、浸透方向は8方向
  • 無限長斜面の安定計算式を用いて安定計算を実施し斜面の安定性を評価

計算式

(Fs:安全率、c’:土の粘着力、φ’:土の内部摩擦角、γ:土の密度、γw:水の密度、z:土層厚、β:斜面の傾斜角、h:地下水高さ)

事例計算箇所・対象災害

文献等に公表されている災害報告から、下記の5箇所を対象としました。

地域 対象災害 参考文献
香川 さぬき市 2004年台風23号

松村ら:2004年台風23号における岡山県玉野市、
香川県さぬき市周辺の土砂災害(速報);
砂防学会誌Vol.57,No.6

山口 防府市 平成21年7月21日
豪雨
平成21年7月21日豪雨山地災害対策検討委員会報告書
福島 西郷村 1998年8月豪雨 井口隆:1998年8月豪雨による
阿武隈川上流地域における斜面災害調査報告
鳥取 琴浦町 2007年9月4日
集中豪雨
小山ら:2007年9月4日の集中豪雨により
鳥取県琴浦町で生じた斜面崩壊の特徴;
砂防学会誌Vol.62,No.1
鹿児島 鹿児島市 1993年8月大雨災害 地頭園ら:シラス斜面の崖錐崩壊に関する水文観測;
砂防学会誌Vol.62,No.1

モデルの作成

  1. 地形モデルの作成
    10mメッシュによるDEM作成
    国土地理院公開の10mメッシュデータを使用
  2. 斜面特性の設定
    植生で分類し粘着力を設定
    環境省生物多様性センター公開の植生図を使用
    植生の分類
    林地 成育した林地 a.広葉樹林、針葉樹植林など
    b.アカマツ林
    未成熟林 c.伐採跡地、幼齢林
    d.無立木地 草地 水田、畑地、草地
    その他 市街地、造成地、裸地
    粘着力の分類
    分類 粘着力 参考文献
    a 11.51kN/m2 田村圭司、内田太郎:高精度空間情報を用いた崩壊・土石流発生危険度評価手法に関する研究
    b 8.95kN/m2 a、cを参考に植栽後20年程度の樹林地程度と仮定
    c 7.23kN/m2 野々田稔郎、林拙郎、川邉洋:根系の引張り強度と曲げ強度から推定した樹木根系の斜面安定効果日本林学会誌Vol.76,No.5
    d 5.33kN/m2 cの文献において根茎の支持力が斜面全体の26%とあることから算出
  3. 土層厚、内部摩擦角の設定

    土層厚:表層崩壊の多い2m、内部摩擦角:30°を基本設定
    計算上の矛盾を解消するために以下のように調整

    土層厚と内部摩擦角の設定
    勾配 0-16° 16-30° 30-36° 36-38° 38-42.5° 42.5以上
    土層厚 林地 5.0m 曲線1 曲線2 2.0m 1.25m
    無立木地 2.0m 0.95m
    内部摩擦角 16° 勾配と同じ 30°
    土層厚と内部摩擦角の設定

計算の実施

  1. 初期状態の作成
    災害前1~3ヶ月間の時間雨量データを与えて予備計算を実施、地下水位初期値を作成
  2. 再現計算
    災害時の雨量データを与え地質・土壌分類ごとに透水係数を変化させトライアル

再現計算結果

各地域の計算諸元と透水係数

分類 箇所 主な地質 主な土壌 計算面積 メッシュ数 透水係数
花崗岩地域 さぬき市 花崗岩 褐色森林土 5.3km2 41,600 0.001m/s
防府市 花崗岩、砕屑物 褐色森林土 97.8km2 768,840
火山噴出物地域 琴浦町 ローム、
凝灰岩質岩石
褐色森林土 27.3km2 217,116 0.0002m/s
西郷村 デイサイト火砕岩 褐色森林土 25.1km2 205,714
シラス地域 鹿児島市 シラス 褐色森林土、灰色低地土壌、
黒ボク土、粗粒火山噴出物未熟土
5.3km2 41,088 0.0015m/s

花崗岩地域1 香川県さぬき市

最小安全率と適合率
崩壊地の最急勾配 崩壊地数 崩壊地範囲 バッファ20m区域
1.0未満 適合率 1.0未満 適合率
0°-16° 0 0 - 0 -
16°-30° 3 3 1.00 3 1.00
30°-40° 20 16 0.80 19 0.80
40°-50° 61 49 0.80 58 0.80
50°-60° 14 14 1.00 14 1.00
60°以上 0 0 - 0 -
合計 98 82 0.84 94 0.96

特徴

  • 全域が急峻な山地
  • 適合率が高い
  • 安全率1.0未満の地域がやや多い印象を受ける
花崗岩地域1 香川県さぬき市
再現計算結果

花崗岩地域2 山口県防府市

最小安全率と適合率
崩壊地の最急勾配 崩壊地数 崩壊地範囲 バッファ20m区域
1.0未満 適合率 1.0未満 適合率
0°-16° 10 0 0.00 0 0.00
16°-30° 119 35 0.29 53 0.45
30°-40° 223 116 0.52 161 0.72
40°-50° 189 148 0.78 169 0.89
50°-60° 16 13 0.81 14 0.88
60°以上 0 0 - 0 0
合計 557 312 0.56 397 0.71

特徴

  • 急峻な山地となだらかな丘陵地が混在
  • バッファ20m範囲を見ると適合率が7割強と高い
  • 山地での適合が良いが、丘陵地では適合が悪くなる
花崗岩地域2 山口県防府市 花崗岩地域2 山口県防府市 部分拡大1 花崗岩地域2 山口県防府市 部分拡大2
再現計算結果 部分拡大1 部分拡大2

火山噴出地域1 鳥取県琴浦町

最小安全率と適合率
崩壊地の最急勾配 崩壊地数 崩壊地範囲 バッファ20m区域
1.0未満 適合率 1.0未満 適合率
0°-16° 2 0 0.00 0 0.00
16°-30° 9 0 0.00 0 0.00
30°-40° 93 9 0.10 27 0.29
40°-50° 95 49 0.52 68 0.72
50°-60° 14 11 0.79 12 0.86
60°以上 0 0 - 0 -
合計 213 69 0.32 107 0.50

特徴

  • 台地状の丘陵地に谷が切れ込んだ斜面延長の短い地形
  • 全体の適合率がやや低い
  • 急勾配地域の適合は良いが、緩勾配地域の適合が悪い
火山噴出地域1 鳥取県琴浦町
再現計算結果

火山噴出地域2 福島県西郷村

         
最小安全率と適合率
崩壊地の最急勾配 崩壊地数 崩壊地範囲 バッファ20m区域
1.0未満 適合率 1.0未満 適合率
0°-16° 28 2 0.00 9 0.32
16°-30° 152 69 0.45 99 0.65
30°-40° 78 44 0.56 61 0.78
40°-50° 21 15 0.71 16 0.76
50°-60° 7 6 0.86 7 1.00
60°以上 2 2 0.00 2 1.00
合計 288 138 0.48 194 0.67

特徴

  • 丘陵地形が多く、10m程度の小崩壊が多い
  • 30°未満の緩勾配斜面に崩壊地が多い
  • 全体の適合率は7割程度と良好で、特に30°以上では高い
  • 16°未満の緩勾配地域の適合が悪い
火山噴出地域2 福島県西郷村
再現計算結果

シラス地域 鹿児島県鹿児島市

特徴

  • 崩壊地の形状等が示せなかったため、適合率は評価しない
  • 谷周辺に急崖の発達した地形となる
  • 谷地形の地下水が集まる箇所の安全率が低くなり傾向は良い
  • 崩壊位置との整合が取れる箇所と不整合な箇所の差が大きい
  • 植生境界で明瞭に安全率が分かれる結果となり、シラスの特性の考察が必要と思われる
シラス地域 鹿児島県鹿児島市
再現計算結果

適合率と再現性評価

  1. 適合率
    • バッファ20m範囲では全体で0.69と良好
    • 花崗岩地域では0.71~0.96と高い
    • 火山噴出物地域では0.50~0.67
    • 勾配40°以上で0.85以上
    • 勾配30~40°で0.65,16~30°で0.55
    • 勾配16°未満では0.23と低い
  2. 崩壊の再現性
    • 視覚的には良好な傾向
    • 山地は再現性が高く、丘陵地は低め
    • 崩壊地に適合がなくても、崩壊と同じ斜面の近隣・谷の上下に安全率1.0未満のセルが出現する箇所が多い
    • 適合率以上に地域の危険性の評価はできている
    • シラス地域については検討が必要
各地域の適合率
個所 崩壊地数 崩壊地範囲 バッファ20m区域
1.0未満 適合率 1.0未満 適合率
さぬき市 98 82 0.84 94 0.96
防府市 557 312 0.56 397 0.71
琴浦町 213 69 0.32 107 0.50
西郷村 288 138 0.48 194 0.67
全体 1156 601 0.52 792 0.69
勾配ごとの適合率
崩壊地の最急勾配 崩壊地数 崩壊地範囲 バッファ20m区域
1.0未満 適合率 1.0未満 適合率
0°-16° 40 2 0.00 9 0.23
16°-30° 283 107 0.38 155 0.55
30°-40° 414 185 0.45 268 0.65
40°-50° 366 261 0.71 311 0.85
50°-60° 51 44 0.86 47 0.92
60°以上 2 2 0.00 2 1.00
合計 1156 601 0.52 792 0.69

予測計算

  • 解析プログラムでの1時間(1step)を計算する所要時間
  • レーダーアメダスデータの取得から解析結果をHPへ展開するシステムの構築と必要時間の検証

計算時間

今回の検証環境では、100万メッシュ→1.75分程度です。
(100万メッシュ:約10km四方 小規模な市町村であれば網羅できる広さ)

検証環境
PC1 CPU:Pentium(R) 3.2GHz RAM:2.0GB OS:Windows XP SP3
PC2 CPU:Athlon(tm)Ⅱ RAM:2.0GB OS:Windows 7
1時間の計算量
1時間の計算量

システム構築と雨量データの入手

  • レーダーアメダスデータ取得確認から結果の表示にいたるシステムを構築しオフラインテストを実施
  • 1時間毎の現在雨量(解析雨量)と1時間後予測雨量を利用

構築システムと時間検証

構築システムと時間検証
構築システムと時間検証

警戒避難体制への活用・展望

  • 20万メッシュ・25km2の場合で、2分未満ですべての処理を終了
  • 100万メッシュ・10km四方では計算時間が1.5分×2→3分ほど増加するとして、5分程度で展開可能と推定
  • 小さな自治体であれば1モデルで実施可能
  • 広い範囲であっても複数のモデルを並列に計算させることで、同程度の時間で実施可能
警戒避難体制の利用資料としては、活用可能と考えられる

まとめと課題

評価点

  1. 植生に着目した粘着力と土層厚の分類により、複数地域統一のモデルでの高い崩壊再現性を実現
  2. 広域的な危険箇所の予測を行える可能性が示せた
  3. レーダーアメダスを利用した崩壊予測の表示を、広域でも比較的短時間で展開可能であることを確認

課題と対応

  課題 対策・対応
1 計算事例が少なく、モデルの信用度が課題 複数の地域・地質土壌のパターンについて検証を行いモデルの精度向上を図る
2 丘陵地や緩勾配地域での精度向上が必要 起伏量、地形量、尾根谷度、標高などの属性データの充実と検証の実施
3 尾根地形。稜線付近では土層厚が過剰となり崩壊が課題に表現される可能性がある 起伏量、地形量、尾根谷度、標高などの属性データの充実と検証の実施
露岩地域などの把握と表現の充実を図る
4 地下水の基盤面への流出、損失が考慮されていないため長大な斜面では危険個所が課題に発言する可能性がある 事例計算を行い問題の有無の確認、対応策の必要性を検討する
5 崩壊位置の予測・特定を厳密には行えない 傾向の把握や周辺地域を含めた情報としての利用とするなど、運用によって対応することが必要